今日は三島由紀夫の絶筆、「豊饒の海」の第二巻目「奔馬」について書いてみます。


とはいえ、この巻はどうも苦手で〜なぜなら主人公が右翼青年だからです。小説とは言え、どうしても右翼思想が理解できないので読んでいても集中できなくて・・・・〜いつもつらいところはすっとばして読んでしまいます(これって読んだとは言わないですよね)。ただ昨日ついつい思い入れのある「春の雪」について熱く語りすぎてしまったので、やはり二巻目以降も書いたほうがいいでしょう・・・。というわけで、本日急いで読み直しをしてみました・・・・・。

「春の雪」の主人公松枝清顕の死後18年が過ぎ(註:小説内では18年と書いていたり20年と書いていたりまちまちなのですが)本多繁邦は38歳となりました。結婚をし、大阪の裁判所に勤めています。子供にはめぐまれません。真面目に仕事に取り組む毎日の中、上司から「自分の代理として奈良県の神社で行われる剣道の神前奉納試合の祝辞を述べて欲しい」と依頼をうけます。気が進まないながらも出かける本多。彼はそこで「飯沼勲(いいぬまいさお)」という剣の達人を目の当たりにします。勲はその天性の腕前をもって五人抜きの偉業をなしとげ個人優勝の栄誉を受けます。
試合後神社が祀られている山を案内された本多。思ったよりも険しい山で帰路は汗だくに。そこで案内の人から滝で身体を清めることを勧められます。一度は断りながらも勧められるままに滝に入る本多。そこには先客がいました。剣道の試合で汗を流した若者達です。そのなかに飯沼勲もいました。なにげなく勲のいる方に目をやった本多が見たものは、勲の左脇腹にきざまれた三つのほくろでした・・・・。その瞬間、本多は18年前のいまわのきわの清顕の言葉を思い出します。「又、会うぜ。きっと会う。滝の下で」という言葉を!
なんという偶然!それだけでなく、なんと勲は昔松枝家に住み込みの書生として働いていた男の一人息子だったのです。その男の名前は飯沼茂之。宮家と婚約関係にあった聡子を寝取った清顕のお目付け役だった彼はあることをきっかけに松枝家を追放されます。しがない書生であった飯沼は20数年後財界からお金をせびりとる「職業右翼〜信念からではなくお金のために右翼を名乗る〜」として本多の前にあらわれます。
そんな男の一人息子である勲。やはり右翼思想の持ち主です。父親がお金のために思想を抱いているのに対し、彼は心底右翼に傾倒しています。いくら清顕の生まれ変わりであってもまるで清顕とは正反対の思想の持ち主。本多は「ほくろの証拠」を見せつけられながらも心のどこかで疑っていました。

右翼思想を持ちながらも人をひきつける魅力のある勲。年上の人たちにかわいがられます。そんな折知り合いの紹介で、ある宮様との面会を赦されます。宮様の名は洞院宮治典王殿下(とういんのみやはるのりおうでんか)。彼こそがかつての綾倉聡子の婚約者。つまりは清顕のライバルなのです。なんという運命の皮肉・・・。

本多と勲が知り合ってから月日が過ぎ去る中、いよいよ勲の右翼思想はすすんで行きます。クーデターを起こし、日本の国をよくしたいという思いがつのります。そんなさなかに、本多は東京出張の折、ふと飯沼親子に会いたくなり電話をしてみます。電話にでた飯沼茂之から勲が修行をしにいっている山梨行きを誘われます。誘われるがままに山梨にでかける本多。そこで彼は、修行先の先生に叱責されたことに逆上し猟銃を借り出して「気晴らしに犬でもネコでも討ってくる」ととびだした勲の魂を浄化すべく結成された「捜索隊」に加わることになります。修行の場では殺生なぞもってのほか。玉串をささげて清めるというわけです。「馬鹿らしい・・・・」と思いつつもついていった本多がみたものは・・・・・
二十人ほどの白衣に白袴の若者たちが、いずれも玉串を携えて、緊張した面持ちで群がっていて、彼らは飯沼茂之のあとを神妙について行きます。そうして一人が勲を発見し、「あそこにいるぞ」と叫びます。飯沼茂之は息子の頭上に幣を振り、そして言います「困ったことだ。鉄砲まで持ち出して。お前は荒ぶる神だ。それにちがいない」と。
その瞬間、本多のなかではじめて記憶が、容赦のない明確な形をとります。今疑いもなく目の前で実現されたのは、清顕が夢日記につぶさにしるしたものと寸分の違いもなく一致していました。本多はここで、清顕から勲への転生はまさしく事実であったことを思い知らされます。

帰京してからは、どんどん勲の右翼傾向は高まります。そしてとうとう自分の計画を実行しようとした途端、同志からも年長者からも宮様からも信じていた人たちからも裏切られ、計画は頓挫し、勲は逮捕されてしまいます。そんな勲を救うべく、なんと本多は裁判官の職をなげうち弁護士登録をし、勲の弁護をかってでます。
長きに渡る裁判の中で、本多をはじめいろいろな人が勲を救うべく詭弁を述べます。信じていた人が偽証をしてまで自分を救おうとしてくれる・・・。でもそれは自分の信念が否定されることで勲には到底耐えられるものではありませんでした。

獄中にいる間、いつしか勲はくりかえし夢をみるようになります。その夢とは、うっそうとしげった木々の下で昼寝をする自分がいます。寝返りをうつとそのたびに身体がゆれます。何かと思って身体をみると・・・・女性の身体になっていました。そう、夢の中の自分は異国の地で昼寝をする女性・・・・。またある時はスコールの降り注ぐ中、立ちすくむ自分。やはり女性の姿です。ふと気がつくと足元に蛇が。逃げるひまもなくかまれてしまい、意識が遠のいていきます・・・・。なんて不思議な夢。あまりに不思議な夢に苛まれ、寝言をいうことも・・・・・そんな勲のひとりごとを聞いた本多。そのときは何も感じませんでしたが、後々うちのめされることになります。

いよいよ結審の日。結果は本多の尽力もあり無罪。自分の信念が幻にされてしまいました。よかったと喜ぶ人々の中で勲は新たな計画を練り始めます。幻はやはり実現化しないと自分の活きる道はない・・・・。そしてとうとう彼はやり遂げます。しかし警察から追われることになり、おいつめられた彼は夜明け前に、自ら腹に持っていた短刀を突き刺します。その瞬間に彼のまぶたの裏には日輪が輝くのです。夜明け前にもかかわらず・・・・・
彼は幻とされた自分の信念を現実にしたことにより、勝利を得たことになるのです。

次の転生はもうお分かりですね。三島由紀夫は第三巻でもあっと驚く謎かけを読者へと仕掛けてきています。読むのに体力が必要です。

それでは、また明日。

長々読んでくださってありがとうございます。お疲れのところ申し訳ありませんが人気ブログランキングへ

奔馬―豊饒の海・第二巻 (新潮文庫)

奔馬―豊饒の海・第二巻 (新潮文庫)