今日は「豊饒の海」第三巻「暁の寺」の話です。


勲が自決してから八年後。本多は47歳となりました。勲のために裁判官の地位を投げ捨て弁護士になった本多はめきめきと頭角をあらわして活躍しています。そんな彼にある商社からタイでの裁判の依頼が持ち込まれます。本多は依頼を受けバンコクへと飛びます。
職業義務の他に、本多がバンコク行きを了承したのにはかれこれ30年近く前の学習院時代の出来事があります。当時タイの王子様とそのいとこが留学にきていました。清顕と本多は彼らと鎌倉の海岸の別荘で一夏を過ごします。そこでタイの王子様たちは青春を楽しみ、清顕は聡子との逢瀬を楽しみました。本多は東京に住む聡子を車でこっそり迎えに行き、夜明け前につれて帰るという役目を清顕のために果たしていました(この車を貸してくれたのが今回の裁判を依頼した商社の御曹司なんです!。人間関係絡みまくりです)。そんな思い出もあり依頼を受けた次第です。本多の宿泊先「オリエンタルホテル」(今でも老舗中の老舗です)からメナム川をはさんでタイの名刹「ワットアルン」こと「暁の寺」が見えます。

問わず語りでふと王子様といとこのことを案内人に言うと、「お二方は戦争を避けるべくヨーロッパに行っておいでであるが、一人幼いお姫様が薔薇宮というところにご静養中でこの方にならお目通りがかないます」とのこと。何でも、このお姫様ときたらとっぴな発言をするのでヨーロッパには連れて行けず幽閉状態にあるらしい・・・。そのときはそんな子供に会っても仕方ないと思い返事をしなかった本多ですが、その夜、旅の退屈しのぎにともってきた清顕の形見「夢日記」を読んだところ、シャム(清顕のころはまだシャムと呼んでいたんですね)の色鮮やかな夢がつづられていました。夢の中での清顕は「高い尖った、宝石をいっぱい鏤めた金の冠を戴いて」立派な椅子に掛けていて、その指には王子達が学習院の中で盗難にあったエメラルドの指輪をはめている・・・。
そんな記憶も手伝って、本多はお姫様に会いに行くことになるのですが、その車中でもうとっくの昔に忘れていたあることを思い出します。それは自決の3日前に酔った勲が言った言葉。そのときはただのうわごとだと思い気もとめなかったのに、この日急によみがえった言葉。それは「ずっと南だ。ずっと暑い・・・・・。南の国の薔薇の光りの中で・・・」。なんということでしょう。

そうして会った姫。名は「月光姫=ジン・ジャン」というのだそう。聞き覚えがある名前。そう、タイ王子の死んでしまった許嫁と同じ名前です。ジン・ジャンは自分に会いにきた日本人の男の名前が「ホンダ」であることに気づくなり、彼のもとにかけより泣き叫びながらこう言いました。「本多先生!なんとお懐かしい。私はあんなにお世話になりながら黙って死んでしまい、お詫びを申し上げたく、足掛け8年今日の再会を待ち焦がれてきました。今はこんな姫の姿をしているけれど私は日本人だ。前世は日本で過ごしたから、日本こそ私の故郷。本多先生!どうか私を日本につれて帰ってください!」と。もちろんこの言葉はタイ語だったので通訳を介してでのものです。そこで本多は、清顕と勲でないと知るはずもない質問を2点投げかけます。その答えはまさに清顕と勲から返ってきたもの以外の何物でもありませんでした。

名残惜しいまま本多は所用でインドへでかけます。インドでも不思議な体験をし(清顕のいまわのきわの言葉「また、会うぜ。きっと会う。滝の下で」に関する体験です。奈良の滝での出来事も真実でしたが、インドの滝で本多は清顕が自分のすぐそばにいるのを確信したのです。確信した途端、彼はどこかへ飛翔してしまいましたが・・・・)、タイへもどってきて、再度ジン・ジャンに拝謁を赦されます。ジン・ジャンは再会を喜びながらも、目は別れの予感に潤んでいます。会話の中でふと日本のことが出た瞬間、狂ったようにジン・ジャンは泣き出します。姫は召使に奥の間へ連れ去られ、ここで本多と生まれかわりかもしれない姫は別れを余儀なくされます。水浴びをご一緒する機会に恵まれたのに何度目をこらしても姫の脇腹にほくろをみつけることができなかった本多。この姫は本当に生まれかわりだろうか・・・・?たしかに前世の記憶は鮮明だが・・・・。

帰国後すぐに第二次世界大戦がはじまります。戦争中はひたすら「輪廻転生」について調べていた本多でした。清顕、勲、そしてジン・ジャン・・・。はたして本当に生まれかわりだろうか?と。

戦争が終結。時がたち、本多は58歳になりました。戦後、地主制度が廃止されるにあたって担当した裁判で勝訴。4億(戦後直後の4億ですぞ!!)近い報酬が彼のもとに入ります。彼は、とうとう子供にめぐまれず身体も弱い妻のために別荘を建てることにしました。かつて従順で優しかった妻。子供を産めなかった自分を正当化するためでしょうか、ことあるごとに文句をいうようになります。家事が楽になるようにお手伝いさんを雇おうとすると「他人が入ると気を遣わねばならず、身体によくない」といい、かといって一日の終わりには「家事ばかりでもうへとへと。身体によくない」・・・。それでも本多は彼女につくします。
そんな本多のもとに朗報が届きます。18歳になったジン・ジャンが日本に留学に来ると。再会にあたり本多はふとしたことで入手したエメラルドの指輪をプレゼントとして用意します。そう、このエメラルドの指輪こそ、学習院内で盗難にあった王子のものでした。戦後、洞院宮さま(覚えてますか?)が生活に困ってはじめられた骨董品店に飾ってありました。その指輪を見た途端買い取った本多。

久しぶりにあったジン・ジャンは「自分が日本人だ」などと言った記憶が全くなく、「小さいころは変わった子だといわれたけど、今は普通よ」と言い出し本多を混乱させます。約束をすっぽかしたかと思うと急に現れたりと本多はふりまわされっぱなしです。そんなジン・ジャンに本多は指輪を渡します。易しい日本語で指輪の歴史を教えてもピンとこないらしいジン・ジャン・・・。

本多が建てた別荘。実はこの別荘にはあるからくりがありました。いわゆる「覗き部屋」です。なんていうことでしょう。弁護士ともあろう本多が「覗き」をするなんて・・・・。
そう、彼は清顕の人生の傍観者でした。また勲の人生の傍観者でもありました。その上、ほくろをたしかめるために見つめる行動もある意味「覗き」でしょう。弁護士となってからはさまざまな人々の人生の傍観者となったわけです。傍観者として人生を覗いているうちに、とうとう人間の生きるための根本の行動である性行為を覗くようになってしまった本多でした。

本多はジン・ジャンを別荘に招きます。目的はジン・ジャンの左脇腹のほくろを確かめるため。そのためにこともあろうに知人に頼んでジン・ジャンと年齢も家柄もつりあうような青年を紹介してもらい、彼に寝込みを襲わせてまで確かめようとする本多(悪いオヤジだ!)。
本多が隣の部屋から覗いていることも知らずにジン・ジャンはのどかに着替えをします。もう少しで脇腹が見える!というときに、青年が乱入。抵抗するジン・ジャン。ジン・ジャンは泣きながら別荘を飛び出していってしまい、隣の別荘に逃げ込みます。もちろん、ほくろは確かめられず仕舞です(お馬鹿チン)。

ジン・ジャンにあやまりたくて下宿先である留学生会館に出向く本多。でも面会は拒絶されます。それだけでなく2階の窓から本多に向かってあるものが投げられます。それはティッシュでくるまれたエメラルドの指輪でした・・・・・・。

本多は、泣きながら出て行ったジン・ジャンをかくまってくれた隣人の女性に協力を頼み別荘でパーティを開くことにします。来てくれないかも・・・と危惧したけれども、ジン・ジャンは来てくれます。それも指輪をはめて。本多は心底ほっとします。

その夜ジン・ジャンを例の部屋に案内し、妻が寝静まるのを待つ本多。いよいよです、覗き窓のカムフラージュとなっている本をどけて覗いた先には・・・・・一糸纏わぬ姿のジン・ジャンと隣人の女性の姿がありました。放恣のかぎりをつくす二人。そうしてジン・ジャンが自分の動きを邪魔する相手の太ももをどけるべく腕を上げた途端、本多の目にはっきりとうつったもの。そう、それは脇腹にきらめく3つのほくろ・・・・・。
そのときです、本多は背中を軽くたたかれます。そこには妻の姿。この瞬間、夫婦仲が険悪になりつつあった二人は「覗き屋の夫婦」としてまた仲睦まじく生きていくことになります。

その夜、本多の別荘は他の招待客の寝タバコで火事になり全焼します。手に手をとりあって逃げてきたジン・ジャンと隣人の女性。女性がジン・ジャンに指輪のありかをたずねるとこともなげに「置いてきてしまった」と一言。
それ以来ジン・ジャンと本多は会うことがありませんでした。そうして15年後のある日、アメリカ大使館のパーティでアメリカ人と結婚したタイのプリンセスという女性が本多の目の前に現れます。彼女こそジン・ジャンだと本多は疑いませんでした。晩餐の間時々彼女の顔に目をやりましたが日本語を話す風は全くありません。英語は完璧です。食後やっと本多は彼女と話す機会を得ます。「ジン・ジャンをご存知ですか?」と尋ねる本多に彼女が返した言葉は「知っているどころか、私の双生児の妹ですわ。もう亡くなりましたけれど」・・・・・・

彼女の語るところはこうでした。「日本留学から帰ってのち、これが一向みのりのない留学だとわかった父君はアメリカへ留学させようとしました。しかしジン・ジャンはうんと言わず、バンコクの邸で花々に囲まれて怠けて暮らすことを選んだのです。そうして20歳になった春に、突然死んでしまいました・・・。侍女の話だとジン・ジャン以外誰もいないはずの庭で彼女の笑う声が響いたそうです。何で一人なのに笑っているんだろう侍女はおかしく思ったそうです。その笑い声はまるで幼女のようだったと言っていました。ジン・ジャンの笑い声が青い空の下に弾け、止んだと思ったそのとき、鋭い悲鳴がきこえたとのこと。侍女が駈け付けるとそこには蛇に足を噛まれて倒れているジン・ジャンがいたそうです・・・。彼女は医者が到着する前に息をひきとりました・・・」

次の転生はあるのでしょうか・・・・。いよいよ物語は「天人五衰」へ。

今日も長くてごめんなさい。そしてエッチでごめんなさい。それでもよければ人気ブログランキングへ

私のあげた同性愛の他にも3Pプレイとかすごいエッチがてんこもり!読んでてクラクラしちゃいます。勉強になりますです(するな〜!)

暁の寺―豊饒の海・第三巻 (新潮文庫)

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今日の話題に関係ないけど発売を記念して「フォー!」その名も「黒ひゲイ危機一髪」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051029-00000092-myc-sci